家庭のテレビを、情報端末にする

1984年、日本でCAPTAIN――キャプテンシステム――の商用サービスが始まった。

NTT技術史料館は、これを日本初の双方向型静止画情報提供システムとして記録している。

文字や図形のデータは、電話網とビデオテックス通信網を通って家庭へ届いた。

情報センター
      ↓
ビデオテックス通信網
      ↓
電話網
      ↓
専用端末/テレビアダプタ
      ↓
家庭のテレビ画面

利用者は画面を一方的に見るだけではない。

番号やキーを入力し、見たい情報を選ぶ。

テレビは放送を受ける窓から、情報センターへ問いかける端末へ変わるはずだった。

CAPTAINは、テレビの中へ放送局を増やしたのではない。家庭から選択できる情報都市を作ろうとした。

videotex――文字と図形を電話網で呼び出す

CAPTAINはvideotexの一種だった。

videotexは、文字、単純な図形、色、画面単位の情報を、通信回線を通じて呼び出す仕組みである。

Webページのように自由な文書形式を世界中のサーバーから取得するのではない。

サービス事業者や情報提供者が用意した画面を、管理された網と端末から選択する。

放送
同じ内容を多数へ送る

CAPTAIN
利用者が要求した画面を個別に返す

静止画中心でも、放送とは異なる双方向性があった。

パソコンではなくテレビを選ぶ

1984年当時、家庭にパソコンがあることはまだ一般的ではなかった。

一方、テレビはすでに多くの家庭にあった。

そこでCAPTAINには、既存テレビへ接続するアダプタ型端末や、表示装置と一体になった専用端末が用意された。

NTT技術史料館には、テレビアダプタ型のキャプメイト、ディスプレイ一体型端末、街頭端末、多機能電話型端末などが記録されている。

新しいコンピュータを家庭へ置く
ではなく

すでにあるテレビへ通信機能を足す

この選択には、パーソナルコンピュータが情報端末の中心になるとはまだ決まっていなかった時代が見える。

CAPTAINの未来では、情報社会への入口は机の上のパソコンではなく、居間のテレビだった。

画面は、情報提供者が作る

CAPTAINでは、ニュース、天気、交通、買物、観光、行政、金融、娯楽など、多様な情報を画面単位で提供する構想があった。

情報提供者は、専用の作成環境やセンターを通じて画面を登録する。

利用者は目次や番号から画面を選ぶ。

情報提供者
  ↓ 画面を作成・登録
情報センター
  ↓ 利用者の要求に応答
家庭端末

現在のWebでは、誰でも比較的容易にサーバーを借り、HTMLを公開できる。

CAPTAINでは、情報の作成、登録、審査、課金、配信が、より強くサービス基盤の中へ組み込まれていた。

閉じた網は品質と統一性を作る。

同時に、誰が情報提供者になれるかを基盤側が決める。

ページではなく「画面」を呼ぶ

Webでは、スクロール、リンク、画像、動画、プログラムが一つのページに混ざる。

CAPTAINでは、情報はテレビ画面に収まる単位として設計された。

低速な回線で、限られた端末へ、文字と図形を確実に表示するためである。

画面番号を選ぶ
      ↓
データを受信する
      ↓
一画面を描画する
      ↓
次の番号を選ぶ

利用者は画面番号とメニュー階層をたどる。

リンクをクリックして未知の外部サイトへ飛ぶのではない。

情報空間は、サービス提供者が設計した目次構造の中にあった。

CAPTAINの地理はURLではなく、番号と画面階層でできていた。

電話網と専用網の重なり

利用者宅からの接続には電話網が使われた。

しかしCAPTAINは、単に電話回線の向こうに一台のパソコンがある草の根BBSとは違う。

ビデオテックス通信網、情報センター、情報提供者、専用端末を組み合わせた社会インフラとして構築された。

草の根BBS
個人のホストへ直接電話する

パソコン通信
商用ホストのアクセスポイントへ電話する

CAPTAIN
電話網から専用ビデオテックス網へ入り、登録画面を呼び出す

利用者から見れば、どれも電話番号の先に情報がある。

だが、所有者、端末、情報形式、公開権限、課金の構造は異なる。

ハイキャプテン――静止画からマルチメディアへ

NTTの記録では、1986年に高解像度フルカラー・デジタル方式を採用したハイキャプテンが販売された。

後には音声や自然画、DTPへの対応も進められた。

CAPTAINは最初の形で停止したのではない。

より高精細で、より多くの媒体を扱う方向へ拡張された。

文字・図形
   ↓
高解像度・フルカラー
   ↓
音声・自然画
   ↓
インターネット接続との連携

1990年代には、ビデオテックスからインターネットとの通信サービスへ進展したとNTT技術史料館は説明している。

閉じた画像情報網が、開かれたIPネットワークへ接続されていった。

なぜWebにならなかったのか

CAPTAINは「失敗したインターネット」ではない。

設計の前提が異なる。

  • 専用または対応端末を使う
  • 情報形式を統一する
  • 情報提供者を登録する
  • 通信網と情報センターを一体で管理する
  • テレビ画面に適した静止画を返す
  • 公衆通信サービスとして品質と課金を設計する

Webは、異なるコンピュータとネットワークの上に、公開された規約を重ねた。

CAPTAINは、端末から網、画面形式、情報提供までを一つのサービスとして整えた。

CAPTAIN
統一された都市を運営する

Web
異なる土地にある文書を共通規約で結ぶ

CAPTAINのほうが古く、Webのほうが新しいというだけではない。

中央で整えた情報都市と、分散した文書空間という、異なる未来像だった。

phreakingとの接点

CAPTAIN自体はphreakingではない。

しかし、電話網が音声以外の情報空間への入口になる過程を示している。

利用者は電話番号を通じて、電話交換機の向こうにある専用情報網へ入る。

電話番号
  ↓
音声通話
ではなく
情報サービスへ接続

phreakingが電話網の内部制御を音から読んだ文化なら、CAPTAINは電話網の端に、制度的に設計された画像情報世界を接続した。

同じ電話線の上に、反体制的な探索と、国家的・企業的な情報社会構想が並んでいた。

消えた未来をどう保存するか

端末だけを保存しても、CAPTAIN全体は戻らない。

必要なのは、

  • 端末
  • 画面生成方式
  • 通信プロトコル
  • メニュー構造
  • 情報提供者の画面
  • 課金と契約
  • 通信網
  • 応答時間

である。

サービス終了後、端末は残っても、番号を入力して画面が返る体験は失われる。

CAPTAINは、機械の標本であると同時に、失われたネットワーク全体の標本である。

保存すべきものはテレビ端末だけではない。電話をかけると、居間の画面の奥に情報都市が開くという因果関係そのものだ。

この標本が示す境界

  • 双方向性はインターネットだけの性質ではない
  • テレビ、電話、コンピュータの役割は歴史的に固定されていない
  • 統一端末と閉じた網は、使いやすさと参入制限を同時に作る
  • 情報の単位はページではなく、一画面として設計できる
  • 電話番号は人だけでなく、専用情報網への入口になり得る
  • 技術史には、勝者へ統合されなかった別の未来が残る

CAPTAINは、Webが現れる前に、テレビを窓、電話網を道路、情報センターを都市として組み上げた。私たちが住まなかった情報社会の模型である。

関連標本

資料・出典