一般には、誌名を縮めてバッ活と呼ばれた。
『ラジオライフ』から生まれた
『バックアップ活用テクニック』は、1985年7月15日、三才ブックスの月刊誌『ラジオライフ』の別冊として始まった。
当初は不定期刊行だったが、PART15から独立して季刊化し、PART31から隔月刊になった。1994年のPART38まで発行され、総集編2冊を加えると全40冊になる。
その後、誌名は『ゲームラボ』へ引き継がれた。国立国会図書館の書誌でも、『バックアップ活用テクニック』は1985年から1994年まで刊行された雑誌で、継続後誌は『ゲームラボ』とされている。
1985年
『ラジオライフ』別冊として誕生
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PART15
独立創刊・季刊化
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PART31
隔月刊化
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1994年 PART38
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『ゲームラボ』へ
『ラジオライフ』が電波、受信、電話、公衆電話、改造、社会の裏側を扱ったのに対し、バッ活はその視線を、パソコンやゲーム機の内部へ強く向けた雑誌だった。
「バックアップ」という言葉
バックアップは、本来、データを失ったときに備えて複製を保存することを意味する。
しかし、1980年代から1990年代のパソコンソフトやゲームでは、複製そのものが簡単ではなかった。
- 記録媒体の形式が機種ごとに違う
- 市販ソフトにコピー防止が施されている
- 同じデータを書き込んでも起動しない
- ドライブやメモリの制約がある
- プログラムが媒体や機械の状態を検査する
そのため「バックアップする」という行為は、単にファイルをコピーするだけでは終わらない。
保存したい
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なぜ普通には複製できないのか調べる
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ディスク形式やプログラムを解析する
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機械が何を本物としているかを知る
ここでは、保存、複製、解析、プロテクト解除が非常に近い場所にあった。
バックアップという穏当な言葉が、機械の内部へ入るための入口になった。
ディスクを読むことは、システムを読むことだった
初期の誌面では、PC-8801、X1、FM-7/77、MSXなどのパソコンを対象に、ディスクやテープのコピー、ドライブの増設、プログラム、機器改造、市販ツールなどが扱われていた。
復刻電子版PART3の目次には、機種別のディスクコピー・ツール、ROMカートリッジのコピー・プログラム、ディスク増設、テープコピーのための改造、DISKハッカー用語集、市販コピー・ツールのカタログが並んでいる。
重要なのは、コピーの成否だけではない。
- ディスクはどの単位で記録されているか
- OSやゲームはどこを読んでいるか
- コピー防止は何を検査しているか
- ドライブや本体はどの信号を信用するか
- 市販機へ何を足せば別の動作をするか
複製しようとすると、媒体、回路、プログラム、認証の境界が露出する。
ディスクをコピーするためには、ディスクを読む機械の考え方まで読まなければならなかった。
ゲームを遊ぶことから、ゲーム機を調べることへ
時代が進むにつれ、誌面には家庭用ゲーム機、アーケード基板、コントローラ、映像出力、クロックアップ、ゲーム改造などが大きく入り込んだ。
総集編の目次には、PC-98やX68000のゲーム改造、ゲーム基板の資料、メガドライブ、PCエンジン、スーパーファミコン、NEO-GEOなどの周辺機器・映像・コントローラ改造が並ぶ。
これは通常のゲーム攻略とは違う。
ゲームのルールを理解する
ではなく
ゲームが動く機械のルールを理解する
画面上のキャラクターや物語の裏には、メモリ、CPU、入力端子、映像信号、カートリッジ、ディスク、基板がある。
バッ活は、完成品として渡されたゲームを、再び部品と信号へ分解して見せた。
読者を消費者の席から立たせる
メーカーが想定する利用者は、製品を買い、説明書に従って使用する。
バッ活の読者は、そこで止まらない。
- 本体を開ける
- 基板を見る
- 配線を追う
- プログラムを読む
- 数値を書き換える
- 周辺回路を作る
- 機種間の差を比較する
- 市販ツールの仕組みを考える
失敗すれば、ディスクが読めなくなる。本体が動かなくなる。はんだ付けを誤る。掲載されたプログラムを自分で入力しなければならない。
誌面は便利な裏技だけを渡すものではなく、読者を作業台の前へ連れていくものでもあった。
製品は完成しているように見える。だが、所有者が蓋を開けた瞬間、もう一度未完成になる。
hackとcrackの日本語雑誌文化
バッ活の扱った領域は、当サイトで収蔵しているhackとcrackの両方へつながる。
hack
= 既存の機械へ手を入れ、別の可能性を引き出す
crack
= コピー防止や利用制限などの防壁を破る
電子工作、増設、周辺機器の自作、ゲーム機改造は、広い意味でのhackingに近い。
一方、ディスクのプロテクト、媒体認証、ゲームの制限を外す行為は、software crackingに接近する。
しかし誌面上では、この二つが別々の専門分野として整然と分離されていたわけではない。
「動かしたい」「保存したい」「改造したい」「仕組みを知りたい」という欲望が、同じページ群の中で混ざっていた。
所有、保存、複製の境界
バッ活が残した問いは、現在も解決していない。
- 購入したソフトを保存するための複製は、どこまで所有者の権利か
- コピー防止を解析することと、無断配布することは同じか
- 壊れた機械を修理するための改造と、利用制限を外す改造はどこで分かれるか
- 生産終了したソフトを保存するには、当時の保護を越える必要があるのか
- 所有している機械の内部を、所有者自身が読めるべきか
技術的には同じ手段が、保存、研究、修理、輸入利用、無断複製、商売に使われることがある。
目的が違っても、機械から見れば同じ操作である場合がある。
コピーできることと、コピーしてよいことは同じではない。だが、コピーできなければ保存できない物もある。
紙に印刷されたプログラムと回路
バッ活は、情報の内容だけでなく、情報が紙で届いた時代の標本でもある。
- 長いプログラムリスト
- 数値やアドレスの表
- 回路図
- 配線図
- 改造箇所の写真
- 機種別の対応表
- 市販ツールの紹介
- 部品や機器の広告・通販
読者はページを眺めるだけではなく、キーボードからプログラムを入力し、誤植を探し、部品を集め、基板へ手を入れた。
現在ならファイルをダウンロードして終わる情報も、当時は紙面から人間の手を通して、もう一度機械へ戻された。
編集部の機械
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紙面へ印刷
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書店から読者の机へ
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手入力・配線・はんだ付け
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別の機械で再び動く
雑誌は情報を説明する媒体であると同時に、コードと回路を複製する低速な通信路だった。
『ゲームラボ』へ
1994年、バッ活は『ゲームラボ』へ改題・継承された。
パソコンのディスクコピーを中心とした時代から、家庭用ゲーム機、改造、データ、ゲーム文化全体を扱う時代へ、媒体の重心も移っていった。
誌名が変わっても、完成品をそのまま受け取らず、内部を調べ、別の使い方を探し、メーカーの外側で知識を共有する態度は残った。
私の記憶
私は、『ラジオライフ』に続くもう一つの雑誌として、『バックアップ活用テクニック』を思い出した。
二誌は別々の雑誌だったが、記憶の中では同じ書店の棚、同じ出版社、同じ技術文化の周囲にある。
ラジオライフ
= 電波、電話、社会の見えない仕組み
バックアップ活用テクニック
= パソコン、ゲーム、媒体、機械の内部
どの号を読んだのか、どの記事を特に覚えているのか、実物を保存していたのかは、まだはっきり思い出せない。
それでも「バッ活」という略称には、コピー、改造、プロテクト、ゲーム、電子工作がまだ一つの領域として混ざっていた時代の空気が残っている。
『ラジオライフ』が社会の裏側を見せたなら、バッ活は製品の蓋を開けた。
関連標本
- ラジオライフ――電波と裏側を街の書店へ運んだ雑誌
- hack / hacking――切ることから、システムの別の可能性を引き出すことへ
- crack / cracking――防壁を破ったことを示す語
- PlayStation modchip――コピーCDを読ませた小さなIC
- ゲームラボ
- コピー・プロテクト
- ディスクコピー
- PC-8801
- X1
- FM-7/77
- MSX
- PC-9801
- X68000
- アーケード基板
- ゲーム改造
- 電子工作
- CD-R
- Warez
- Demoscene