「緑の公衆電話」は一種類ではない

日本で「公衆電話」と聞いて、多くの人が最初に思い浮かべるのは、NTTの緑色の電話機である。

緑の受話器、黒い前面パネル、数字キー、10円・100円硬貨の投入口、テレホンカードの挿入口、残度数を表示する赤い数字。駅、商店、病院、学校、路上の電話ボックスに、同じような姿で置かれていた。

しかし、緑の公衆電話は一つの機種ではなかった。

1982年にテレホンカード対応機が登場してから、硬貨併用、カード専用、小型化、金庫部分の変更、緊急通報ボタン、国際通話対応、盗難対策、カード読取部の改良などを重ね、複数の世代と派生型が作られた。

外からはほとんど同じに見えても、内部では別の機械だった。

街から見えるもの
        = 緑色の公衆電話
        
        電話網から見えるもの
        = 型式、回線、課金方式、カード読取方式が異なる端末

カード式公衆電話の世代

NTTの公式年表では、1982年12月にテレホンカードを使えるカード式公衆電話が登場した。最初の機種は硬貨も併用でき、1984年にはテレホンカード専用機も導入された。

その後、1980年代後半には小型軽量化された機種が広がった。代表的なものがMC-3Pで、現在まで「緑の公衆電話」の典型的な姿として記憶されている。

公衆電話蒐集者の記録では、カード式公衆電話には次のような型式群が確認されている。

  • MC-1PN:初期の硬貨・カード併用機
  • MC-2P:初期のカード専用機
  • MC-3P系:小型化され、広く普及した機種
  • MC-4P系:料金収納部や防犯構造などを変更した派生型
  • MC-5AMC-5B系:カード専用や特殊設置向けの派生型

同じMC-3P系の中にも、緊急通報部、受話器コード、カードユニット、国際通話対応などが異なる複数の枝があった。

緑色は機種名ではなく、世代の違う機械を一つに見せる制服だった。

テレホンカードを読む機械

カード式公衆電話は、テレホンカードに記録された残度数を読み取り、通話料金に応じて減算し、残りを表示した。

利用者から見ると、カードを差し込めば数字が現れ、通話するたびに減っていく単純な動作だった。

カードを挿入する
              ↓
        残度数を読み取る
              ↓
        通話を許可する
              ↓
        時間に応じて度数を減らす
              ↓
        更新された状態をカードへ残す

この流れのどこで、電話機はカードを本物だと判断していたのか。

磁気情報の形式が正しいこと。残度数の記録に矛盾がないこと。カードの物理状態と記録内容が対応していること。後の世代では、変造カードに見られる不自然な特徴がないこと。

これらの確認方法は、すべての機種で同じではなかった。

使える機種、使えない機種

私の記憶では、変造したテレホンカードを使える緑の公衆電話と、使えない公衆電話があった。

同じ緑色でも、電話機の世代やカードユニットが違えば、受け入れるカードも違った。

これは、変造方法が一つの万能な鍵だったのではなく、電話機側の検査能力との組み合わせで成立していたことを示している。

同じカード
           ×
        古いカード読取機
           = 通ることがある
        
        同じカード
           ×
        対策された読取機
           = 拒否される

NTTの公式年表には、1996年の新形ディジタル公衆電話で、変造テレホンカード対策としてカードユニットを高セキュリティ化したことが記録されている。1999年のICカード公衆電話は、さらに「抜本的な変造テレホンカード対策」を目的の一つとして導入された。

2005年にICカード公衆電話が廃止され、磁気カード式へ一本化された後も、NTTは偽変造カードの検出能力を高めた磁気カード公衆電話機が利用阻止に効果を上げていると説明している。

つまり、緑の筐体の変化は外観の更新だけではない。

電話機と偽造カードが、互いの変化を読み合った履歴である。

カードユニットだけが売られていた

私の記憶では、公衆電話の内部に収められていたカードユニットが、単体の部品として売られていることもあった。

それは受話器もダイヤルキーも持たない。テレホンカードを差し込み、内部へ送り、磁気情報を読み、必要な処理を行って排出する部分だけを切り出した機械だった。

街角の公衆電話
              ↓ 分解
        カードを扱う内部ユニット
              ↓ 単体で流通
        机上に置かれた機械部品

公衆電話は、街頭に固定されたNTTの設備だった。その内部機構だけが部品市場へ現れると、利用者には閉じられていた課金と認証の境界を、手元で観察できる物へ変わる。

街に据え付けられていた認証装置の心臓部が、部品として机の上へ来る。

私が当時見たものが、正規の補修部品だったのか、廃棄機から取り外されたものだったのか、別用途の互換ユニットだったのかは、いまのところ分からない。

1988年には、公衆電話内部の度数計を目的として全国で約50台の電話機が盗まれたとする当時の記録もある。カードを読み書きする内部機構そのものが、カード以上に価値を持つ対象になっていた時期があった。

カードユニットは、テレホンカードの仕組みを理解するための部品であると同時に、公共設備の内部が中古部品やジャンクとして外へ流れ出す境界の標本でもある。

黒くなった後継機

私の記憶では、緑の公衆電話の後に、黒い公衆電話が現れた。

NTTの公式資料では、1990年にISDN回線を利用するディジタル公衆電話が登場し、1991年の新形機にはライトグレーが採用されたとされる。現在の案内でも、この系統は「グレーのディジタル公衆電話」と呼ばれている。

ただし、実物は暗いグレーの筐体や黒に近い前面パネルを持つものがあり、緑の機械と並べれば「黒い公衆電話」と記憶されても不自然ではない。

ディジタル公衆電話には、大型ディスプレイ、受話音量調節、オンフックダイヤル、パソコンや端末を接続する通信端子などが加わった。

緑のカード式公衆電話
        = 通話と課金の端末
        
        黒く見えるグレーのディジタル公衆電話
        = 通話、課金、表示、データ通信の街頭端末

外観の色が変わったとき、公衆電話は電話機から情報端末へ近づいていた。

公衆電話にも番号がある

私の記憶には、「公衆電話にも電話番号がある」と言われていたことが残っている。

公衆電話は匿名の箱が電話網へ直接つながっているわけではない。交換機、課金設備、故障受付、緊急通報、保守運用の側では、どの公衆電話回線から発信されたかを識別する必要がある。

したがって、網内では個々の公衆電話回線を区別する番号や回線情報が存在する。

ただし、次の三つは同じではない。

網内で端末を識別する番号
        
        利用者が相手へ通知できる発信者番号
        
        外部からダイヤルして着信できる公開番号

現在のナンバー・ディスプレイでは、公衆電話からの発信時に数字の電話番号は表示されず、代わりに「公衆電話」という情報識別子が通知される。

つまり電話網は発信元が公衆電話であることを知っているが、相手には個別の番号を見せない。

古い公衆電話や委託公衆電話については、設置形態や回線設定によって着信の扱いが異なった可能性がある。「番号を知っていれば公衆電話へかけられる」という話も伝わっているが、すべての緑の公衆電話が一般の電話から着信できたとまでは確認できない。

番号は存在する。しかし、利用者からは隠されている。

公衆電話番号の話は、電話網の中にある識別と、利用者へ見せる表示が別のものであることを示している。

緑の機械の中にあった複数の境界

公衆電話は、通話するための単純な道具に見える。

しかし、その中には複数の境界が重なっていた。

  • 硬貨という物質と、入金されたという電気的記録
  • テレホンカードの残度数と、カードが正規品であるという判断
  • 同じ緑色の筐体と、内部の異なるカード読取機
  • 街頭設備としての電話機と、単体で流通するカードユニット
  • 利用者には見えない回線番号と、相手に表示される「公衆電話」
  • 発信できることと、外部から着信できること
  • アナログ公衆電話とディジタル公衆電話
  • 電話機としての外観と、保守・課金端末としての内部

テレホンカードの変造を試した者にとって、公衆電話の機種差はデザインの違いではなかった。

この電話機は、カードの何を見ているのか。

緑の筐体を前にして、外からは見えない認証方式を推測していた。

私の記憶

私の記憶では、NTTの緑の公衆電話には何種類かあった。

その後、黒く見える公衆電話が現れた。

変造したテレホンカードを使える機種と、使えない機種があった。同じカードでも、公衆電話を選ぶ必要があった。

公衆電話のカードユニットだけが、部品として売られていることもあった。

さらに、公衆電話にはそれぞれ電話番号があると言われていた。

この記憶の中で、公衆電話は街角に置かれた均一な設備ではない。

色を見る
        型を見分ける
        カードを差す前に機種を選ぶ
        内部ユニットが売られているのを見る
        見えない番号があると聞く

利用者の前にある一台の電話機から、交換機、課金、認証、内部部品、回線番号へ想像が伸びていく。

それは、電話網を設備の所有者側ではなく、端末の差異から読み始める視線だった。

写真・保存資料

関連標本

  • テレホンカード
  • 変造テレホンカード
  • カードユニット
  • カードリーダー/ライター
  • カード式公衆電話機
  • MC-1PN
  • MC-2P
  • MC-3P
  • MC-4P
  • ディジタル公衆電話
  • ICカード公衆電話
  • 公衆電話番号
  • 発信者番号通知
  • 課金と有価情報
  • 表示と証明
  • 信頼境界
  • ジャンク部品
  • Phreaking Boxes
  • Red box
  • Black box

資料・出典