一つの語に、別々の歴史が重なっている
現在、hackという語を聞くと、まずコンピュータへの侵入を思い浮かべる人が多い。
しかし、この語は最初からコンピュータのために作られたものではない。
切る
壊す
粗く加工する
その場しのぎで作る
機械を工夫して動かす
巧妙ないたずらをする
プログラムへ深く入り込む
システムへ不正に侵入する
日常の問題を簡単な工夫で解く
これらは一つの意味が順番に変化したものというより、古い意味の枝へ、新しい文化が別の意味を接ぎ木してきた結果である。
hackは、意味を一つに固定できないこと自体が、その文化を表している。
最初のhackは「たたき切る」
英語のhackには、古くから、刃物などで繰り返し不規則に切る、たたき切るという意味がある。
この動詞は中英語を経て、古英語の語形へ遡る。辞書上では12世紀から確認されている。
滑らかに切断する
ではなく
何度も刃を入れ
粗く切り開く
この古い像は、後の技術文化にそのまま受け継がれたと断定できるわけではない。
それでも、完成された設計へ正面から従うのではなく、手元の道具で強引に入口を作るという感触は、現代のhackにも残っている。
hack writerのhackは別の枝
hackには、凡庸な雇われ仕事、三流の職業人、使い古されたものを指す意味もある。
- hack writer
- political hack
- hack work
この枝は、貸し馬や乗合馬を表したhackneyに由来するとされる。
したがって、技術文化のhackを説明するとき、次の二つを単純に同じ語源として混ぜない方がよい。
切る・粗く加工するhack
雇われ仕事・凡庸な仕事を表すhack
現代英語では同じ綴りの中に並んでいるが、歴史上は別の枝が合流している。
MITで、hackが技術文化の語になる
現代的な技術用語としてのhackは、1950年代のMIT、特にTech Model Railroad Club――TMRCの文化と強く結び付いている。
TMRCは、巨大な鉄道模型を動かすために、リレー、配線、制御盤、電話交換機用部品などを組み合わせていた。
模型の表面には列車と線路がある。
その下には、信号と制御の巨大なシステムがあった。
列車を走らせたい
↓
既製品だけでは足りない
↓
余った部品や回路を組み替える
↓
本来の用途とは違う方法で動かす
↓
hack
TMRCは、自分たちを技術用語としてのhackとhackerの発祥地と位置付けている。
1955年――電気系統をhackingする
技術的な意味での早い記録として、1955年4月のTMRC会議記録が知られている。
そこでは、電気系統で作業またはhackingをする者は、ヒューズを飛ばさないよう電源を切るよう求められていた。
ここでのhackingは、コンピュータ侵入ではない。
電気系統を理解する
配線へ手を入れる
試す
直す
別の動きをさせる
という、システムの内部へ直接触れる作業を表していた。
workとhackが並べられている点も興味深い。
通常の作業と、少し不規則で実験的な作業が、同じ電気系統の上で区別されていた。
1959年――内部語として定義される
Pete Samsonがまとめた1959年版を起源とするTMRC辞書では、hackとhackerが独立した語として記録されている。
当時の定義は、現在の「優れた技術的解決」だけではない。
hackには、建設的な目的のない作品や計画、悪い思いつきから始めた作業、混乱を増やす物といった、自嘲的な意味も含まれていた。
hackerは、それを作る者だった。
役に立つか分からない
設計として美しいとも限らない
だが、面白いから作る
そして実際に動くことがある
初期のhackには、技能への誇りだけでなく、無駄、遊び、失敗、過剰さへの笑いも入っていた。
hackは、最適解の名前ではなく、正規の仕事から横へそれた工作の名前だった。
巧妙だが、必ずしも美しくない
現在のTMRCは、本来の意味でのhackを、機知を使って巧妙な結果を生むものと説明している。
典型的なhackには、次の特徴がある。
- 短時間で作られる
- 必ずしも優雅な設計ではない
- 元のシステム全体を作り直さない
- 既存の構造の中へ入り込む
- 設計者の想定と違う方向から目的を達成する
- 粗いのに、驚くほど有効である
全面的な再設計
ではなく
既存システムの隙間へ
小さな仕掛けを差し込む
これは、当サイトで集めている多くの標本にも共通する。
modchipはゲーム機全体を作り直さない。
Phreaking Boxは電話網全体を所有しない。
公衆電話のカードユニットは、課金システムの一部分だけを机上へ取り出す。
hackは、巨大なシステムへ、小さな異物を差し込む発想だった。
いたずら、探検、工作
MITでのhackは、電子工作やプログラミングだけを意味しない。
キャンパス内の探検、巧妙な仕掛け、建物や大ドームを使った無害ないたずらもhackと呼ばれる。
MITが現在示す定義では、hackingには、好奇心によるキャンパス探索や、機知と技術力を示す無害ないたずら・発明が含まれる。
工作としてのhack
= 機械を別の方法で動かす
いたずらとしてのhack
= 空間や制度を別の意味に変える
共通するのは、破壊そのものではない。
そこに既にある物の意味や機能を、短時間だけ組み替えることである。
hackとは、物を壊すことより、物が別の物にもなれると示すことだった。
コンピュータへ移る
1960年代、MITの計算機文化とTMRCの人々が重なるにつれ、hackとhackerはコンピュータの語になっていった。
コンピュータは、決められた業務を処理する高価な装置だった。
しかしhackerは、そこへ別の可能性を見た。
- 音楽を鳴らす
- ゲームを作る
- 画面へ絵を出す
- システムツールを書く
- 計算機を複数人で共有する
- 動かなかった装置を動かす
- 制限された資源から最大限の機能を引き出す
1960年代末には、コンピュータに深く関わる者をcomputer hackerと呼ぶ活字例が確認される。
ここでのhackerは、侵入者というより、機械の内部を理解し、プログラムを書くこと自体を楽しむ者だった。
hackingは行為、hackは結果、hackerは姿勢
三つの語は重なるが、同じではない。
hack
= 工夫、作品、変更、いたずら、結果
hacking
= 手を動かして探り、試し、組み替える行為
hacker
= その行為へ深く没入する者
ただし、初期文化では、完成品だけが評価されたわけではない。
途中の試行、無駄な工作、夜通しの没入、予想外の失敗もhackingの一部だった。
hackingとは、正解を知ってから実装することではない。
システムへ触れながら、そのシステムが本当には何であるかを知っていくことだった。
「侵入」の意味が前面へ出る
コンピュータが電話回線やネットワークへ接続されると、hackingは別の意味を強く持つようになった。
- 許可されていない計算機へ入る
- 認証を回避する
- データを盗む
- システムを破壊する
- ネットワークを妨害する
報道や一般社会では、こちらの意味が次第に中心になった。
その結果、同じhackerが、二つのほとんど反対の人物を指すようになった。
技術文化内部のhacker
= システムの内部を深く理解し、創造的に扱う者
一般報道のhacker
= コンピュータへ不正侵入する者
この分裂は、現在も解消されていない。
hackerとcracker
技術文化の一部では、不正侵入や破壊を行う者をcrackerと呼び、hackerから分けようとした。
1993年のIETF文書RFC 1392は、hackerを、システム、特にコンピュータやネットワークの内部動作を親密に理解することを喜ぶ者と定義した。
同じ文書は、無許可でシステムへ入ろうとする者をcrackerとし、悪意を持つことが多いと説明した。
hacker
= 理解、技能、好奇心、創造
cracker
= 無許可アクセス、侵害、破壊
しかし、この区別は社会全体には定着しなかった。
現在では、セキュリティ業界内部でもethical hacker、malicious hacker、white hat、black hatなどの修飾語を付けて区別することが多い。
語を守ろうとした文化と、語を別の意味で使った社会が、同じ単語を引き合っている。
phreakとの接続
phreakとhackerは、同じ語ではなく、最初から同じ文化でもない。
phreak
= 電話網、信号、交換機、番号、課金
hacker
= 機械、回路、コンピュータ、プログラム
しかし、電話回線へモデムがつながると、両者の境界は薄くなった。
電話番号を探す。
モデムの応答を見つける。
PBX、ボイスメール、パソコン通信、大学の計算機へ接続する。
電話網を読むphreakingと、コンピュータを読むhackingは、通信回線の上で合流した。
phreakingが電話網の意図されない読み方なら、hackingはシステム一般の意図されない読み方だった。
life hack――語が日常へ広がる
2000年代には、life hackという表現が広がった。
小さなスクリプト、仕事の習慣、整理法、生活上の工夫などを、複雑な問題を簡単な方法で切り抜けるhackとして呼ぶようになった。
computer hack
= システムの複雑さを理解し、短い経路を作る
life hack
= 日常の複雑さを、小さな工夫で切り抜ける
ここでは、不正侵入の意味は薄い。
語は再び、便利な工夫、裏技、近道という意味へ広がった。
しかし、あらゆる小技をhackと呼ぶことで、初期の語にあった、システムを深く理解し、内部から別の可能性を引き出す感覚が薄くなることもある。
hackは善悪を決めない
hackという語だけでは、行為の正当性は決まらない。
- 自分の機械を改造する
- 他人の機械へ無断で入る
- 不具合を調査する
- 不具合を悪用する
- 安全性を検証する
- データを盗む
- 無害ないたずらをする
- 公共設備を壊す
これらは同じではない。
技術的に巧妙であることと、倫理的・法的に正当であることも同じではない。
hackerの技能は行為を説明するが、その行為を正当化しない。
MITのhacking文化も、安全、無害、非破壊、他者の尊厳を重視する原則を掲げている。
何かをhackと呼ぶことは、損害や違法性を消す免許ではない。
この標本が示す境界
- 切断と創造
- 粗雑さと巧妙さ
- 仕事と遊び
- 正式な設計と即興的な変更
- 完成品と実験過程
- 機械の使用と機械の理解
- いたずらと破壊
- 探索と侵入
- 技能と正当性
- hackerとcracker
- 当事者が使う言葉と、報道が使う言葉
- コンピュータ文化と日常語
hackは、単純に「侵入する」という意味から始まった語ではない。
古い切断の語、MITの工作といたずら、コンピュータへの没入、ネットワーク侵入、日常の工夫が、同じ綴りの中へ積み重なっている。
hackとは、システムを壊すことではなく、まず、設計者の地図に載っていない経路を見つけることだった。
その経路を何のために使うかは、語ではなく、行為者が決める。
関連標本
- Hacking
- Hacker
- Cracking
- Cracker
- Phreak
- Phreaking
- Tech Model Railroad Club
- MIT Hacks
- hacker ethic
- kludge
- modchip
- Phreaking Boxes
- 電話交換機とPBX
- 2600 Magazine
- Phrack
- Usenet /
alt.* - TEXTFILES.COM
- 『Hackers: Heroes of the Computer Revolution』
- life hack
- ethical hacker
- white hat / black hat
写真・保存資料
- MIT Tech Model Railroad Club
- TMRC|Abridged Dictionary of the TMRC Language
- MIT IHTFP Hack Gallery
- MIT Press|Nightwork